アスペルガーの男性と会話をしていた時のことです。このような質問を受けました。
「発達障害以外の障害を背負うとしたら、どれがマシ?」
私は「マシな障害なんてないよ。」と答えました。
すると男性は「俺は“口がなくなる症候群”(?)が良かった。」と言うのです。
「俺は場にそぐわない発言でいつも叱られるから、喋れなくなっちまったほうが楽だ。」と。
アスペルガーや自閉症、ASD 広汎性発達障害をもつ当事者は、コミュニケーションが苦手です。
何と喋ったらいいのか、瞬時に想像がつかない特性があります。
その男性との会話でふと、相手の気分を損なわない「褒め上手」になるにはどうしたらいいか、疑問に思いました。
相手を褒めることで得られるメリット
ロサンゼルスに13年半住んでいた知人が、日本に帰国して1番驚いたことは、「日本人はあまり人を褒めないこと」だそうです。
「家のバカ息子が」や「家の愚妻が」などを英訳してアメリカ人に聞かせると、大ウケだと言っていました。
アメリカでは身内でも、通りすがりの人にでも互いを褒め合う文化があります。
ところで、日本だけでも500万部の歴史的ベストセラー、デール・カーネギー著の「人を動かす」という本があります。
人が生きていく上で身につけるべき「人間関係の原則」を、実例豊かに説き起こした不朽の名著なのですが、その中に書いてある、人間の8大欲求というものの中に、「自己の重要感」というものがあります。簡単に言うと、自分の価値を他人に評価してもらいたいという願望のことです。
この本の中には
「我々は、子供や友人や使用人の肉体には栄養を与えるが、彼らの自己評価には、めったに栄養を与えない。(中略)優しい褒め言葉は、夜明けの星の奏でる音楽のように、いつまでも記憶に残り、心の糧になるものなのだ」
と書いてあります。
人を褒めるのが好きなアメリカ人でもこうですから、日本人はいかに人を褒めないのか、自戒の念を持ったほうが良さそうです。
日本人はなぜ人をあまり褒めないのでしょうか?
その理由の一つとして、日本人は遠慮がちで、あまり他人に深入りしないという特徴が挙げられます。良く言えば、思慮深いのです。人の領地に土足で上がらないのが、日本人なのかもしれません。
しかし、人を褒めないのは「もったいないこと」なのです。諸説はありますが、人間の脳は主語を理解しないと言われているからです。
つまり、「人を褒めること=自分を褒めていること」だと、脳は勘違いしてくれるのです。逆に言えば、人の悪口や愚痴や文句を言ってみても、それは自分のことを言っているのだと脳は考えてしまうというのです。
このメカニズムを利用しない手はありません。人を褒めるだけで、効果は自分に返ってくるのです。
「その髪型よく似合ってるね」と褒められたら、誰でもう…う…嬉しい気分になりますよね。
特に、小さな変化に気づいてもらえたり、作った料理の味を美味しいと言ってもらえたり、親切にしたことに、心からありがとうと言ってもらえただけで、とても幸せな気持ちになります。
ほんの小さなことでいいんです。人から評価されることは、想像以上に元気の源になるのです。トラウマの逆ですね。
ただし、人を褒めるのにはちょっとしたコツがあるのです。それは「具体的に褒めること」です。
例えば、とても可愛らしい人に「可愛いですね」と言っても、本人は言われ慣れているので、あまり感激しないそうです。
それよりも、「今日の服と靴、すごく似合ってるね」のように、何かを具体的に褒めるほうがより効果的です。
わざとらしくならないように、人を褒めようと思いながら人間観察をしていると、それだけでも自分にプラスになります。人の良い部分を見ようとする心は、自分自身の良さを見抜く力にもなるからです。
自分が得意だと自信を持って言えることは、「誰かに褒められたから」というシンプルな理由が発端だったりします。
言葉はいつも諸刃の刃で、人を傷つけたり、はたまた幸せな気持ちにさせたりするものです。
言霊(ことだま)と言われるように、口から吐き出す言葉には、心がこもっているものです。
その一言が、価値のある一言になるかも、人を傷つけるかも、私達の心がけ次第だということを決して忘れてはいけません。
生かされているのであれば、一言でも人や自分を幸せにする言葉を多く発していきたいものですね。それが必ず自分に返ってくるのですから。