今日は、発達障害による「生きにくさ」をもつ私が感銘を受けた「不敗」という孫子の言葉について綴ってみようと思います。
孫子の言う「不敗」とは何か ~勝つ事と負けない事~
人間が生きていく上で重要な要素の一つが「勝利」です。「勝つことだけが人生ではない」という人もいます。
確かに、敗北することも時には重要です。
しかし、その敗北が何故重要なのかと言うと、次の勝利に向かうための経験になるからです。
負けてばかりでは非常につらい人生になります。精神衛生上もよくありません。
ですので、生きていくうえで重要なのが「勝利」を目標にすることです。
ですが、その勝利に囚われすぎて失敗し、結果として敗北したときと同じリスクを負ってしまうという事も多々あり、それは歴史が証明しています。
そこで今回は、孫子のいう「不敗」について考察していきたいと思います。
不敗の原則
孫子はこう言います。「善く戦うものは不敗の地に立ち、而して敵の敗を失わざるなり」と。
これは、「戦いにおいて善戦するものというのは、自分が不利にならないように体制を整えているものだ。そして、絶対に勝てるというときに勝負をする。」という意味です。
この考え方は多くの武人たちも実践しており、たとえば人類史上最も偉大な軍人「ハンニバル・バルカ」や、日本の武将で言えば「織田信長」もその一人だと言えます。
戦う前に、自軍を整え時をうかがう。言われてみれば当たり前のことですが、実践するのは難しいものです。
これをよく「戦う前から戦いが始まっているのだ」と約す人がいます。
確かにそれは正しいです。しかし、実際のところはそれだけでは足りません。
勝つ事と不敗、これには異なる点が存在するのです。
負けない事と勝つ事
「勝利」と「不敗」、この二つの言葉を比べて見ましょう。
まず、勝利は文字通り「何らかの争いごとなどに勝った」時のことを言います。
例えば、野球の試合で、AチームがBチームにかなりの点差をつけていても、逆に僅差、ごくわずかの差であったとしても、勝利は勝利です。
一方で不敗は「負けない」ことを指します。
一見すると同じ意味に見えますが、実は全く異なる性質があるのです。
勝利の場合、一つの争いごとにおいてのみの勝敗の結果を指します。
しかし「不敗」は勝利し続けること、つまり「負けた経験が無い」状態のことを指すのです。
同じような言葉で「常勝」という意味があります。
これに近い意味でもありますが、不敗の場合は「ある時点から負けたことがない」も含まれるニュアンスで語られることが多いです。
つまり、不敗とは一つの争い事の勝敗に関わらず、そこから得た経験を活かして成しえることだと言えます。
不敗とは、得た結果を活かして初めて成しえる
そのため、単に「勝利を目指すこと」と「不敗を成しえること」というのは全く意味が違ってくるのです。
たとえ負けたとしても、その経験を活かして勝ち続ければ不敗を成しえます。
逆に一つの勝利に慢心して怠ってしまうと、次に敗北してしまう可能性が高くなります。
日々をどのように生き、そして決して慢心しないでいることが不敗への第一歩なのです。
しかし、これがなかなか難しいものです。
一つの勝利を得ると、誰しもその勝利に酔いしれてしまい、慢心してしまいます。
一番分かりやすいのが、「投資」をしている人達です。
投資で生きている彼らは、決して一つの勝利で満足しません。
自分が投資した株価が上がったとしても、「今勝っているんだからまだ勝ち続けるはずだ」とは決して思わないのです。
これまでの経験則や情報などを頼りに、たとえ調子よく株価が上昇していたとしても、一定のところで利益を確定させます。
なぜなら、彼らは知っているからです。それが自身の経験なのか他者の敗北を見てきたからなのかは分かりませんが、そういう慢心によって欲をかき立てられた人は破滅してしまうということを。
投資家で成功している人達というのは、小さな勝利を多く得るということに長けています。
こうする事で負けが少なくなり、損失が生まれるリスクもかなり小さくなるので、結果として不敗が成り立つというわけです。
彼らの話を聞くと「大枚使って遊びまくり、どーんと金をつぎ込んで大勝する」という世の中のイメージとは大きくかけ離れています。
彼らが目指すものは大勝ではなく、あくまでも「不敗」で、その不敗によって生活を築き上げているのです。
不敗とは、後の運用によって決まる
つまり、孫子の言う不敗とは「勝ち続けること」というよりも「後の運用を安定させる」という意味合いが近いです。
これに失敗してしまった例が、鎌倉幕府の滅亡です。
通常、国同士で争った後は勝者が利を得るようになっていました。
しかし、鎌倉幕府滅亡のきっかけとなった「元寇(元の軍隊が日本に来襲した事件)」においては、敵が外国勢力であったために新たな領土が生まれることが無く、仕方なく武士たちの借金を帳消しにする徳政令を施行するも、今度は武士が金を借りられなくなるという事態に陥り、幕府への不満が高まり滅亡してしまったというわけです。
もし、元寇によって勝利した後に追撃していれば、事態は全く違ったものになっていたかもしれません。
または元寇によって、敵を退けた後に徳政令などではなく、幕府が貨幣を新たに発行して武士たちに給付するなどをすれば、こうはならなかったかもしれません。
「歴史に"もしも"は無い」とは言いますが、こうして歴史を見つめ直してみると、運用の「成功」や「失敗」の例が数多くあります。
それらを学ぶことで、自身が行う様々な運用において失敗するリスクを回避し、不敗につながっていくのです。
「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」ともいいますが、学ぶということも、不敗においては重要な要素の一つであるといえるでしょう。
では、次の章では企業の運用を例に、不敗について考えていきたいと思います。
不敗のためのビジネス思考その1:成功した商品
2000年代に、世界で最も多く売れたといわれる「ゲームハード」があります。
このゲームハードは、当然のことながら多くのゲームファンが購入しました。
しかし、購入者層を見てみると「ゲームをしない層も多分に含まれていること」が分かりました。
何故、普段はゲームをしない人達すらも購入したのでしょう。
それは、このゲームハードの持つ一つの機能を目当てに多くの人が購入するに至ったのです。
それが「DVD再生機能」です。
2000年当初、映像録画および再生のための媒体として利用されていたビデオテープは、終焉を迎えようとしていました。
明らかにテレビに映る映像の質が向上し、それがビデオテープではとても対応できなくなっていたからです。
それを解消するために生み出されたのが「DVD」という新たな映像媒体でした。
画質はキレイで、更にビデオテープよりもはるかに薄いため、場所を取らない等など良い事尽くめでした。
しかし、一つ大きな欠点がありました。
それは、当時はまだDVDを再生させるための機械が非常に高額だったという点です。
DVDを再生させるためだけの機械でも、当時は数万円を越える金額でした。とてもではありませんが、なかなか手の出せない金額です。
たとえビデオテープが限界だったとしても、再生するだけのものに数万円を出すというのはなかなか厳しいものがあります。
ですが、件のゲームハードはなんと、4万円以下の金額で販売されたのです。
多くの人達がこのゲームハードを買い求め、結果として今なお「世界で最も売れたゲームハード」として語り継がれるようになったというわけです。
更に、このDVD再生機能を取り付けたことにより、普段ゲームをしない人もゲームをするようになります。
つまり、ゲームハードが売れただけでなく、ゲーム業界そのものが発展していくきっかけになったのです。
これをきっかけに、ゲームそのものが一般的になっていくことに繋がっていきます。
当時は「ゲームをやっている」というだけで批判される対象でしたが、今では有名芸能人が平然と「趣味はゲームです。」と言うようになりました。
こういう雰囲気を作るきっかけにもなっているので、このゲームハードがゲームという文化に与えた恩恵というのは非常に大きいものです。
その結果、ゲーム業界においては比較的新参だったこのメーカーも、今では1・2を争う競合メーカーの一つとして君臨するに至ったのです。
このメーカーは、もともとテレビなどの家電メーカーなのですが、だからこそ全く新しい視点からゲームハードを作ることが出来たのでしょう。
不敗のためのビジネス思考その2:成功に胡坐をかいた結果
前章にて記載したゲームハードは、販売から数年後に名称を継承した上で「次世代機」として販売されました。
しかし、その売り上げは伸び悩むこととなります。
なぜかと言うと、なんと前章で紹介した「売れた理由」と真逆の戦略に出てしまったからです。
このメーカーは、DVDの次に販売する映像媒体の製造および販売を考えていました。それがブルーレイディスク、いわゆるBDです。
このBDをヒットさせるためにとった戦略が、次世代ゲーム機に再生機能を付けるというものでした。
その結果、価格が数万円を超えることとなります。それでもBD販売当初、再生機も同じくらいの価格だったので、誰もが売れるものと考えていました。
しかし現実は惨敗でした。
なぜ、このようなことが起こったのでしょう。
答えは単純なもので、「次世代ゲーム機は必ず売れる」と過信していたからです。
そのため、BDを売るためにゲーム機に機能を付けたわけですが、実のところDVDは当時まだまだ現役の映像媒体でした。そのため、いきなり「BDが出る」といわれてもDVDに不満がないので誰も興味を示さなかったのです。
「BD再生機能」に魅力がなく、ただ高額なゲームハードとして認知されるようになってしまい、売り上げが伸び悩んだのです。
つまり敗因は、前世代のゲームハードが「ゲームを売るためにDVD再生機能を付けた」ということに対し、次世代ゲームハードの方は「BDを売るためにゲームハードに再生機能を付けた」からと言えるのです。
不敗を成すためには、人々の声を訊け
つまりビジネスにおいては、不敗の土台作りとして必要なのが「人々が何を考え、何を欲しているか」という点です。
人々の欲しているものが何なのかを理解することで、戦略が組み立てられていきます。
そうすると、自然と販売すべきものが見えてくるのです。
人々の声を知らなければ、必ずと言っていいほどに負けてしまう物です。
先ほどご紹介した次世代ゲームハードが、まさにその典型と言えるでしょう。
しかしこのゲームハード、後に売り上げが爆発的に伸びることになります。
その理由の一つともいえるのが、テレビ放送電波の「地デジへの移行」です。
なんとこのゲームハードの付属機器として、地デジ変換&録画機能付きチューナーが販売されたのです。
この付属機器自体は8000円前後と安く、更にブラウン管のテレビにも取り付けられるため、新しいテレビを買う必要もなくなるとあって、ゲームハードとセットで売れるようになったのです。
これを機に、ゲームハードは家電という面も強くなっていくことになります。
このように、人々が何を欲しているかをきちんと理解して、そして適切なタイミングで勝負に出ることはきわめて重要であると言えるのです。
まとめ
不敗の原則というものは、大きなビジネス以外でも日常生活でも取り入れることが可能です。
例えば「収入を増やしたい」と思った時、どうすれば良いかを考えると、真っ先に思い浮かぶのが資格の取得です。
このとき闇雲に資格取得を目指すのではなく、どういった資格が簡単かつ収入が増え得るのかを調べると良いです。
例えば、不動産資格の登竜門ともいえる「宅地建物取引主任者」の資格は、社会人で受ける人も多いので試験日に欠席するというケースが多く、実際に発表されている倍率よりも受かりやすかったりします。
更に、不動産会社はこの資格を有する人間を必ず雇わないといけないため、俗に言う「食いっぱぐれ」てしまうということがほぼなくなります。
更に、自身が社長として企業する際にも非常に有利な資格です。
このように、一つ一つを戦略立てで考察する孫子の「不敗の原則」は、生きていく上においても非常に大切な考え方なのです。
すぐに実践するというのは難しいと思いますが、日常に取り入れてみてはいかがでしょうか。